開催地戸田市
江戸時代中期、天明の頃。紀州の名門・妹背家の娘・加恵が隣村の貧乏医者、華岡家に嫁いできた。花婿の青洲は三年前から京都で医学の修業の身。花婿のいない祝言ではあったが、加恵は満ち足りていた。なぜなら、加恵は幼い頃に評判の気品のある於継を垣間見て憧れをもっていたので、理想の女性としていたその於継から直々に嫁にと望まれて、この上ない幸福を感じていたからだ。
加恵は華岡家の人となるよう励んだ。於継も嫁の加恵を大事にして、その仲睦まじさは人も羨むほどであった。ところが、青洲が京都より帰郷すると、その様子は一変し、青洲をめぐり姑と嫁の凄まじい女の争いが始まった。
そうした女の感情には無頓着な青洲は医学の研究に夢中で、むしろ妹の於勝の乳癌を救えなかった自分への不甲斐なさに苦しむのであった。
それからも、麻酔薬の研究や癌の手術などに没頭し、紀州きっての名医といわれるまでになった。研究も進み麻酔薬の完成には、人体実験を残すだけになると、於継と加恵は競って実験に身を捧げようと言い出した――。
そして、数年の後、加恵と、既に亡くなった於継との総てを見ていた小陸の姿があった。